こども

こどもはこどもらしく振る舞うべきである。

 

自分が幼かったころは、周囲の大人の目から見ていかにもこどもらしく振る舞うように意識していた。無邪気で人懐っこく、よく笑う天使のようなこどもであった。それを示すエピソードがある。

 

ある日、母は幼いおれを連れて百貨店に出かけた。買い物をしていて気がつくと、おれがいない。迷子になったか、と探すも見つからず、館内放送で呼び出しをかけたところ、エレベーターガール(その昔、百貨店にはエレベーターを操作する専業の女性たちがいたのだ)のお姉さんが何やらモジモジとやってきた。

 

「すみません、お宅のお子さんだと思うのですが…」

 

母はおれが何かやらかしたのか、迷惑をかけているのではないかと気が気でなかったという。

 

「あんまりかわいいから、私たちの詰所に連れて行ってしまいまして…」

 

彼女はおれの天使っぷりにやられて、お持ち帰りしてしまったのだ。拍子抜けした母が詰所に行くと、エレベーターガールのお姉さんたちに囲まれたおれはニコニコしながらお菓子を食べていたという。未成年者略取で大きな問題になりそうなものだが、天使だからしかたがない。だってかわいいんだもの!

 

ちなみにこどもらしく振る舞うよう意識していた、というのは嘘だ。天然で天使だった。それがどこで道を踏み外したのか天界を追放され、今では疑り深く人見知りで、ウヒヒと卑屈に笑うペテン師になってしまった。

 

こどもはこどもらしく振る舞うべきである。

 

同様に大人は大人らしく振る舞うべきで、おれは平気で嘘をつく、というか隙あらば嘘をつきたくてしかたがない堕天使でペテン師だ。まさに大人らしく振る舞っていると言えよう。